2022/5/23、昨日の夕方のニュースで「KAZUⅠ」が無事に浅瀬まで吊り上げられたと聞き、安堵していました。
そして2022/5/24、夕方の速報で、「KAZUⅠ」が水深182Mに再び沈んでしまったことを知りました。
飽和潜水にて再度吊り上げにトライすることを日本サルベージはすでに決定しているとの第一報でしたが、
2022/5/25、朝一の報道では、飽和潜水はもうせずに無人潜水機(ROV)を使用して引き上げるとのこと。
水深182Mから無人潜水機でひきあげられるんだったら、最初からそれでよかったんじゃない?
最初は水深120Mだったからね
日本サルベージはどのように考えたのだろうか?
水深182M、飽和潜水で潜れるのか?
まず、最初よりも深い場所に沈んでしまったことで、
水深182Mって人が潜れって、どうこうできる水深なの?
という疑問があります。
最初の水深120Mで実施したのが、「飽和潜水」。
飽和潜水での潜水可能深度はどれほどなのか?
と、心配されている方もおられるでしょう。
前回の記事では紹介しませんでしたが、
人はより深く潜るために、
呼吸するガスをいろいろ試行錯誤してきました
レジャーで行っているスクーバダイビングでは空気(窒素約79%+酸素21%)をタンクに圧縮して詰めているだけです。
最近はレジャーダイビングでナイトロックス(空気とは組成を変えた窒素+酸素、例えば、窒素約64%+酸素36%)を使用しますが、ナイトロックスは大深度潜水には不適なので下記リストには入れていません
- ヘリオックス、ヘリウム+酸素 今回の最初の水深120Mに潜った時に使用したもの
- トライミックス、ヘリウム+酸素+窒素
- ハイドロックス、水素+酸素
人が今までどれほど深く潜れたのか?
その記録も見てみると………、
飽和潜水の世界記録
- 1988年、フランスで水深534Mに行った記録が残っています。実際の海で人が潜った記録としてはこれが世界記録になります(ハイドロックス使用)
- 海ではない陸地で加圧した記録しては、1992年にフランスで701Mの記録が残っています(ハイドロックス使用)
- 日本国内だと2008/5/21、海上自衛隊、潜水艦救難艦「ちはや」の潜水員が水深450Mに到達しているのが最深水深である
過去の記録を見れば、水深182Mが行けない水深ではないことがわかります。
が、
前回の捜索で使っていた、ヘリオックスで今回も潜って大丈夫なのかな?
ヘリオックスを使うと、水深150Mよりも深くなってくると、高圧神経症候群の症状が出てくる率が高くなってきます。
高圧神経症候群
症状
- 手または全身の震え
- めまい
- 吐き気
- 疲労感
- 眠気
- 思考力や精神運動機能の低下
対策
- 症状が出てきたら加圧を停止する
- その深度に30-90分滞在すれば症状の消息を見ることがある
- 後遺症を残すことはない
重大な後遺症は知られていないが、発症機序が未詳であることから警戒されている
原因が特定されてないということ?
そう。ヘリオックスを使って水深150-200Mに行くと症状が出てくる人が多いみたい。
個人差があるようで、これが原因だ! というものがまだわかってないようです
今回、リベンジするのは水深182Mだよね。思考力や精神運動機能が低下したらやばくない??
飽和潜水の手順としては同じだけれど、
前回よりもゆっくりと加圧してチャンバーの中を182Mに調整すると思うから、
高圧神経症候群が出ても、
そこで長時間滞在している間に症状は軽減して収まっていくはず………
とはいえ、もし症状が軽減しなかったら、そこからその人をチャンバーから出さないとダメで、
出すためには………、
水深182Mでしょ。
1M浮上するのに1時間かけて減圧していくから、
1気圧に戻るためには、182時間!!!!
182時間!!
182÷24=7.5
7.5日?!
体調不良になって、
チャンバーから出てくるには最短でも7.5日かかるってこと?
もちろんそんなことになれば、作業はそこで滞るし、代わりの人が行くにしてもまた時間がかかる。
水深120Mの時よりも不安定要素が増えた分、
難しさが増したような………
そこで、たぶん今度は呼吸用ガスを代えるんじゃないかな?
トライミックス(窒素+酸素+ヘリウム)は使えないの?
トライミックス
トライミックス
トライミックスは、ヘリオックスに窒素を加えたものです。
窒素には窒素酔いを起こす作用があったのは前回の記事で書きましたが、
その麻酔作用が理由でトライミックス使用時は水深100M以深には行けません。
今回の「KAZUⅠ」の再引き上げのような水深182Mに潜るような場合、トライミックスは現実的ではありません。
またトライミックス使用時の減圧時間はヘリオックスに比べて多くかかることがある(1976年、デューク大学の調査による)
ってことは、ハイドロックスの出番??
ハイドロックス
ハイドロックス
ハイドロックスは水素と酸素を混ぜた呼吸用ガスです。
1980-1990年代にさかんに使用されいろんな検証がされましたが、研究で使われても、
実戦で使われていないのがハイドロックスです。
じゃーどうすれば安全なのさ??
いろいろ試行錯誤してきましたが、
今のところ実用に足る呼吸用ガスはヘリオックスが頭一つ抜き出ています。
2022/5/25現在
報道によると、飽和潜水での再引き上げは実施せず、無人潜水機で再引き上げを行うとのことで、
明日、2022/5/26に実行されるようです。
前回の引き上げ時に、船内に残されたものなどが船外に流れ出るのを防ぐための処置を飽和潜水で行っていたので、後はベルトスリングを通すだけになったことが大きな理由のようです
あとは、水深182Mで飽和潜水をやれる人材不足もあるんじゃないかな?
最初の引き上げで水深120Mで作業していた人たちがもう一回行くことは無理なの??
浅瀬に引き上げた2022/5/23の時点で、彼らは減圧作業に入っているはず。
その彼らを再び加圧して水深182Mに下ろすような潜水プロフィールは
過去に例がないと思われるので、
会社としてもそこまでの業務の強制はできないと思われます。
過去に例がないってことはどんなことが起こるかわからないってことだからね
でも、無人潜水機でベルトスリング通せるのかな?
流れもある水深182Mだよ。
困難なリトライだと思うんだけれど、このリトライならすぐに実行できるし
二重事故防止の観点から言えば、ノーリスクだから、やってみないのはもったいないよ
これでうまくいけば、新しい潜水者を危険な作業に充てないで済む
もちろん行方不明者のことを考えると、一刻も早い船内の引き上げが大事だというのも理解していますが、
二重事故でまた誰かが亡くなったり、怪我、高圧障害になるのも避けなければなりません。
5/26の引き上げリトライがうまく行くように祈りましょう。
まとめ
- 「KAZUⅠ」の再引き上げに飽和潜水を行うのであれば、ヘリオックスを使用するしかなく、それでは水深的に高圧神経症候群の症状が出る率が高まる
- 作業員の安全を考慮すれば、無人潜水機によるベルトスリングを使用しての再引き上げ作業にはリトライする価値が十二分にある
- 外野の我々は成功するように祈りましょう
私の所属するPADIでも、水深90Mに行けるコースがあります。
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すげー。これ、教えられるインストラクターの資格取ってみたら??
無理ー。まったく興味ないです、かたじけない
浅瀬で遊ぶのが性に合ってます